いつもの朝より少し早い道玄坂のカフェの店内は、人がまばらだった。渋谷までの東横線の車内もほんの少し体が楽だった。
店内の静かに漂う弦楽器の優しい調べは、白い砂浜で日の出の光に青く揺れる、さざなみのように心地良かった。薄い緑、窓際の観葉植物も大きな葉をゆっくりと微笑ませている。
入口脇のレジで朝食を買った美奈子は、奥の四人掛けの席に腰を下ろした。両手を上げ、大きく足の先まで伸びをした。美奈子が身に着けている黒いカーディガンの網目は、動きに合わせて一直線に並んだ。胸の辺りのピンクのバラ
の絵柄も大きく広がった。
窓際に座っている真新しい黒いスーツを着たOLは、目を輝かせて赤い携帯電話でメールを読んでいる。まだ学生の香りが半分くらい残っているようにも見えた。美奈子は四年前の自分に姿を重ね、夢と希望で満ち溢れていた頃を懐かしんだ。
中央の大きな円卓には、よれよれのスーツを着た数人のサラリーマンが腰を掛けている。皆、眠そうで、ぼうっとコーヒーを飲んでいる。所々から、タバコの煙が上がり、店内は朝靄に包まれるようだった。
そうした光景を眺めながら、美奈子は満員電車で縮んだ体をほぐす。そこはお気に入りの席だった。店内全体が見渡せ、気持ちも大海原のようになるからだ
柏傲灣呎價。
美奈子はキャラメルラテを飲みながら、頬を大きく膨らませ、ナポレオンパイを味わった。ふわふわのクリームに包まった紅色の野いちごの甘酸っぱい香りが、口中一杯にぷわりと流れる。至福の一時が全身を駆け抜ける。美奈子の朝は毎日そうして始まった。
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